「なんだか心がモヤモヤして整理できない…」そんな瞬間はありませんか。
私自身、夫にセクシャリティをカミングアウトして以来、会話の中で関連する話題を避けられたり、「その手の話題は自分には関係ない」と言われたりすることがありました。そのたびに「自分の存在を否定された」と感じ、胸が締めつけられるように悲しくなることがありました。
でも振り返ると、夫が言ったのは単に「自分はLGBTQ当事者ではない」という意味かもしれない。出来事そのものと、私がそこに感じた「寂しさ」や「孤独感」は、まったく別のものでした。
実は、このように「出来事」と「感情」を切り分けて考えるだけで、心の整理はぐっと楽になります。本記事では、心理学の知識や研究結果、そして私自身の実体験を交えながら、感情と出来事を切り分ける方法を具体的に紹介します。
出来事と感情を切り分けるとは?
ある日、夫にLGBTQ関連の話をしようとしたとき、軽く話をはぐらかされました。その瞬間、「無視された」と感じて、胸が締めつけられるように悲しくなりました。でも後から考えてみると、「夫が話をはぐらかした(出来事)」と「私は悲しかった(感情)」は、まったく別のものだったんです。この気づきが私にとって大きな転機になりました。
心理学、とくに「認知行動療法」では、出来事と感情を切り分けることが重要だとされています。認知行動療法とは、思考や感情のパターンを見直すことで心を整える方法のひとつです[1]。ここでは「事実」と「解釈」と「感情」を分けて捉えることを重視します。
- 事実(出来事):客観的に誰が見ても確認できること(例:夫が話題を変えた)
- 解釈:出来事をどう意味づけるか(例:「無視された」)
- 感情:その出来事に対して自分がどう感じたか(例:悲しい、孤独、不安)
この3つを切り分けることで、感情に振り回されず、自分の気持ちを冷静に見つめられるようになるのです。
参考資料:
- Beck, J. S. (2011). Cognitive Behavior Therapy: Basics and Beyond. Guilford Press.
なぜ出来事と感情をごちゃ混ぜにしてしまうのか
人は誰でも、頭の中で「思い込みのメガネ」をかけて物事を見ています。心理学ではこれを「認知バイアス」と呼びます。認知バイアスとは、簡単に言うと「物の見方や考え方のくせ」のことです。
たとえば、LINEの返事が来ないとき、本当は「返事が来なかった」という事実しかありません。なのに私たちはつい「嫌われたのかも」「大切にされてないのかな」と感じてしまいます。これは、出来事そのものではなく、「返事がない=自分は軽く見られている」という思い込みのメガネを通して出来事を見てしまうからです。
こうした「思い込みのメガネ」が働くと、事実(出来事)と感情がごちゃ混ぜになるのです。出来事はシンプルなのに、そこに解釈を重ねて「悲しい」「不安」といった感情が強く生まれてしまいます。
「否定された」と感じたけど本当は…?出来事と感情がごちゃ混ぜになった体験
ある日、夫にLGBTQ関連の話をしようとしたとき、「その手の話題は自分には関係ない」「こっちを巻き込まないで欲しい」といった言葉を返されたことがありました。私はその瞬間、「無視された」「自分を理解しようとしてくれない」と解釈してしまい、とても悲しく、孤独を感じました。
けれども後から振り返ってみると、「夫が話題を避けた(出来事)」と「私は悲しかった(感情)」は、別々のものだったのです。相手の態度や言葉は事実として存在するけれど、それをどう意味づけ、どう感じるかは私自身の心の中で起きていることでした。
そんな気づきの転機になったのは、ある本の一節でした。そこには「誰も言葉で自分を傷つけることはできない」と書かれていたのです。言葉そのものはただの出来事であり、その言葉をどう受け取り、どう感じるかは自分の選択だという視点。この考え方に触れたとき、私は「自分で自分を傷つける解釈をしてきたんだ」と気づきました。
その後は、感情が湧いたときにノートに「出来事」と「感情」を書き出し、客観的に眺める練習をしました。「私は無視された存在」ではなく、「私は悲しいと感じている」と理解できるようになったのです。
さらに、私を主語にして伝える、”I(アイ)メッセージ”で「私は悲しかった」と夫に伝えることで、「それが理由で傷ついているとは思わなかった」とフィードバックをもらえ、気持ちを共有しやすくなりました。今では、ネガティブな気持ちであっても無視せず、「私はこう感じている」と受け止める習慣を続けています。
I(アイ)メッセージとは?
Iメッセージとは、自分の気持ちを「私は〜と感じた」と表現する方法です。
相手を責めるのではなく、自分の感情に焦点を当てて伝えるので、ケンカになりにくく、相手も受け止めやすくなります。
例えば…
×「あなたは私を無視した」
○「私は返事がなくて悲しかった」
こうすることで、「攻撃」ではなく「共有」として気持ちを伝えられるのです。
この表現の仕方は、子どもとお話しする時にもとても有効です。
実践:感情と出来事を分ける3ステップ
感情と出来事を切り分けるのは、最初は難しく感じるかもしれません。でもステップに分ければ誰でも取り組めます。研究でも、感情を言語化することがストレス低減に役立つとされています[3]。
ステップ1:ノートに「出来事/感情」を書く
まずはシンプルに、紙やスマホに「出来事」と「感情」の2列を作って書き出してみましょう。
- 出来事:LINEの返事がなかった
- 感情:不安、悲しい
ステップ2:解釈を外す
「無視された」「軽んじられた」といった解釈を一度外して、純粋に事実だけを残します。
これにより、自分の感情が出来事そのものではなく、解釈から生まれていることに気づきやすくなります。
ステップ3:感情に名前をつける
「悲しい」「孤独」「焦り」など、自分が感じている気持ちを言葉にします。感情に名前をつけることは、自分の内面を整理する第一歩です。
私はこの方法を実践するうちに、自分の中にある考え方の癖に気がついてきました。
そうすると、今までは勝手に傷ついてたり落ち込んだりしていたことが、「そこまで気にしなくてもいいのかも」と思えるようになり、少しずつ気持ちが軽くなりました。
自分のことを傷つきやすいと感じている人は、試しにこれらのステップを実践してみてください。
「誰も、言葉で直接私を傷つけることはできないんだ」そう思っていると、自分で自分を守れている安心感が生まれ、楽になるかもしれません。
実例で紐解く:日常シーン別の整理法
1. メッセージの返信がない時
- 出来事:相手から返事が来なかった
- 感情:不安、寂しさ
2. 夫との会話がすれ違ったケース
- 出来事:話をはぐらかされた
- 感情:悲しさ、孤独感
3. 仕事で意見が通らなかったケース
- 出来事:会議で提案が採用されなかった
- 感情:悔しさ、自己否定感
このように分けるだけで、「私は無視された存在だ」という思い込みから、「私はこう感じたんだ」と切り替えやすくなります。
感情を伝える言葉に変えるコツ
感情を整理したあとは、それを相手に伝えるプロセスも大切です。研究でも、自分の感情を「I(アイ)メッセージ」で表現することが、対立を避けながら自己開示する有効な方法だとされています[4]。
「あなたは…」より「私は…」
「あなたは私を無視した」ではなく「私は悲しかった」と伝える。相手を責めずに自分の感情を中心に話すことで、受け止められやすくなります。
感情をできるだけ具体的に言語化して伝えてみる
いつ、どこで、どんな気持ちになったのか、具体的に言語化すると相手が自分の気持ちを理解しやすくなります。
タイミングを工夫する
強い感情の渦中で伝えるのではなく、落ち着いたタイミングで言葉にするのがおすすめです。
習慣化の工夫:心の整理を続けるには
出来事と感情を切り分けることは、一度だけでなく習慣化していくことで効果が深まります。毎日の小さな振り返りが心の安定につながります。
一日の終わりに振り返る
寝る前に「今日の出来事」と「その時の感情」を1セットだけ書く。数分で終わる習慣でも効果があります。
テンプレート化する
ノートやアプリに「出来事/解釈/感情」の欄を用意しておくと、迷わずに続けやすいです。
定期的に見返す
週末に一度書いた内容を見直すと、自分の感情の傾向が見えてきます。研究でも、感謝や親切、内省的な振り返りといったポジティブな活動を定期的に行うことが、ストレス対処や自己理解の促進に役立つことが示されています[5]。
慣れてくると、感情が湧き出た時に、「あ、今自分はこう思ったな(感じたな)」と思えるようになります。
まとめ
出来事と感情を切り分けることは、心のモヤモヤを整理するための大切な一歩です。「夫に無視された」と考えるのではなく、「私は悲しかった」と自分の感情に目を向けること。それだけで心の負担は少し軽くなります。
私もまだ完璧ではありませんが、少しずつ「感情を自分の言葉で表現する」練習を重ねています。
あなたがもし、「頭の中だけで整理するのは難しい」と感じているなら、今日から、ノートに一行書き出すのを始めてみませんか。
小さな一歩が、心を軽くする大きな力になります。
あなたは、あなたのままでいい。