クワセクシャル(Quoisexual)とは、「性的な魅力というものが、自分にとってよくわからない・意味を持たない」と感じる人を指す性的指向のひとつです。
たとえば、友だちを「好き」と思ったとき、それが友情なのか恋愛なのか区別できなかったり、周りが「この人セクシーだよね」と盛り上がっても自分にはピンとこなかったり。そんな「曖昧な感覚」を表すために生まれた言葉です。
この言葉は、2014年に Tumblr のユーザー epochryphal さんが提示したのが広まりのきっかけとされています。
「Quoi(クワ)」はフランス語で「何?」を意味していて、
「ロマンティック/セクシャルな魅力って、そもそも何なの?」という感覚を表すための言葉として使われています。 epochryphal | Tumblr (2014)
その他のセクシュアリティ用語が気になる方のためにこちらの記事もご用意しています。

クワセクシャルの特徴
クワセクシャルに当てはまる人は、こんな感覚を持つことがあります。
- 性的魅力という概念が理解できない、意味をなさない
- 自分が「性的に惹かれているのかどうか」がわからない
- 「友情的な好き」と「恋愛的な好き」の境界があいまい
- アセクシャルやグレーセクシャルといった既存のラベルもしっくりこない
- そもそも「性的魅力」という考え方に共感できない
「わからない」感覚を共有するために、クワセクシャルというラベルが生まれました。
「性的指向や性的魅力という概念が、自分にとって意味をなさない、理解できない、または適用できないと感じる人々を指す用語です。」
— Quoisexual | Sexuality Wiki – Fandom
このように、
クワセクシャルは性的指向に関する疑問や混乱を抱える人々が、
自身の感情や経験を表現するためのラベルとして用いられています。
クワロマンティックとの違い
クワセクシャルとクワロマンティックは似ていますが、用語の意味が異なります。
用語 | 指す対象 | 特徴 |
---|---|---|
クワセクシャル | 性的指向 | 「性的魅力」という概念そのものがわからない |
クワロマンティック | 恋愛指向 | 「恋愛感情」という概念があいまい |
つまり、クワセクシャルは「性の惹かれ方がわからない」という感覚を表すのに対し、クワロマンティックは「恋愛の気持ちがわからない」という感覚を指します。
たとえば、誰かを「好き」と思ったときに
- クワセクシャルの人は「これが性的な魅力なのかどうかがわからない」
- クワロマンティックの人は「これが恋愛感情なのか友情なのかがわからない」
と感じる違いがあります。

アセクシュアルスペクトラムの中でのクワセクシャル
アセクシュアルスペクトラム(Aceスペクトラム)は、
「性的魅力をほとんど/全く感じない人たち」の多様なあり方をまとめて表す概念です。
その中でクワセクシャルは、
「そもそも“性的魅力”という概念がよくわからない/意味をなさない」と感じる人を指します。
用語 | 特徴 | 違い |
---|---|---|
アセクシュアル | 性的魅力を感じない | 欲求自体がないケースが多い |
グレイセクシュアル | 稀に性的魅力を感じる | 頻度や状況に限定される |
クワセクシャル | 概念そのものが曖昧・わからない | 認識や区別の困難さが特徴 |
さらに詳しく、アロマンティック/アセクシャルに関連する用語が知りたい方は、こちらも合わせてご覧ください。

【セルフチェック】自分がクワセクシャルかもしれないと感じたときに
以下の項目にいくつか当てはまるなら、
あなたもクワセクシャルの感覚を持っているかもしれません。
- 恋愛と友情の区別がつかない
- 「好き」が何を意味するのか言葉にできない
- 「セクシー」だと感じても欲求にはつながらない
- 性的に魅力を感じる、という感覚がわからない
※あくまでヒントとして参考にしてください。
自分の感覚がどの指向に近いのか、モヤモヤを整理したいときは、診断ツールを試してみるのもひとつの手です。
実際に診断を受けた体験とそのとき感じたことをまとめました。

クワセクシャル当事者としての体験談
ここからは、私自身が長いあいだ抱えてきたモヤモヤについてお話しします。
もしあなたも似た感覚を持っているなら、「私だけじゃないんだ」と少しでも安心してもらえたら嬉しいです。
「好き」の意味がわからなかった
私は昔から、「好き」という感情が自分の中でどういう意味を持つのか、はっきり理解できませんでした。
友人として好きなのか、恋愛感情なのか、性的な魅力を感じているのか——その境界があいまいで、自分の感情に確信が持てなかったのです。
たとえば、ある友人と過ごす時間が楽しくて「もっと一緒にいたい」「頻繁に連絡をとりたい」「ハグしたい」と思っても、それが恋愛なのか友情なのか、自分でも判断できずに混乱していました。
友達と恋人の境界線がわからない
あまりにわからなくて、辞書を引いてみたこともあります。
友達
「互いに心を許し合って、対等に交わっている人」
恋人
「恋愛関係にある相手」
定義としては確かに違うのですが、私にとっては恋人もまた「心を許せる対等な人」です。
だからこそ「友達」と「恋人」の違いがいつまでたっても掴めず、モヤモヤが残っていました。
「ドキドキ」が恋愛の基準?
周囲の人は「ドキドキするかどうかが恋愛のサイン」だと言っていました。
でも私は、友人に対してドキドキすることもあります。
例えば、素晴らしい景色の中で友人が微笑んでいたり、
好きなことに夢中になっている友人を見たり。
そういう、見ていて幸せを感じる瞬間に心臓が高鳴る感覚があるのです。
それは必ずしも恋人に対してだけ起こる感覚でないな、と思っています。
「性的な魅力」がピンとこない
「この人かっこいいな」「綺麗だな」と思うことはあります。
でも、それが「抱かれたい/抱きたい」という欲求につながることはありません。
美しい体を見て「作品みたいだな」と思うことはあっても、それは美術鑑賞に近い感覚。
周囲が「抱かれたいランキング」で盛り上がっているときも、私は少し遠くから「そういう気持ちが湧くんだなぁ」とファンタジーの世界を外から眺めているような感覚でした。
そういう意味では、アセクシャル(性的な関係を望まない)の感覚が近いのかも、と思うこともあります。

自分がおかしいのかな?
こうした感覚のズレから、「自分はどこかおかしいのかもしれない」と悩んだ時期もありました。
でも「クワセクシャル」という言葉を知ってからは、その気持ちが少し軽くなりました。
「性的魅力がわからない」という感覚も、一つの個性。
誰かと比べて恥ずかしがる必要も、無理に説明する必要もない。
私は私のままでいいんだ、と少しずつ思えるようになったのです。
クワセクシャルは「経験不足」ではない|誤解されやすいポイント
クワセクシャルは「経験不足」や「知識不足」と誤解されやすいですが、そうではありません。
どれだけ経験を積んでも、「わからない」という感覚は変わらない固有のあり方です。
「経験不足だから?」と悩んだ過去
性的欲求を伴う恋愛感情がわからなかった私は、友人や先輩に相談したことがありました。
周りの人たちにはこんなことをよく言われました。
「まだ恋愛経験が少ないからじゃない?」
「知識がないから、わからないだけだよ」
それから、恋愛漫画を読んだり映画を観たり、“恋バナ”にも参加したりと、”いずれわかる”はずの気持ちを追い求めて努力もしてきました。
でも結婚や出産を経ても「わからない」は変わらなかったのです。
自分のままでいていい
それがいけないことだと思った時期もありました。
でも今は「この感覚こそが私らしさ」と思えています。
無理に説明したり、周囲に合わせる必要はありません。
「わからない」という感覚も、私の一部。
私は私のままでいいのです。
関連記事


クワセクシャルかもしれないと思ったあなたへ
もし今、あなたが
「恋愛がよくわからない」
「性的魅力ってどういうこと?」
「この感情に名前をつけられない」
と感じているなら、
無理に答えを出さなくても大丈夫です。
クワセクシャルという言葉があることを知って、
自分の感覚に近いと思えたなら、
それだけでもう十分です。
誰かにわかってもらえなくても、
言葉にしづらくても、大丈夫。
大事なのは、
あなた自身がどう思っているかです。
「私は私のままでいい」
そう思える瞬間が、
あなたの中にも訪れますように。
あなたは、あなたのままでいい。