ノンバイナリー・インビジビリティ(Non-binary Invisibility)という言葉は、ノンバイナリー(non-binary/非二元的)と自認する人が、社会の仕組みや文化の中で「存在しないことにされてしまう」ように扱われる現象を指します。
これは誰かの悪意というよりも、制度や言葉の設計が「男性・女性の二択」を前提にしているために起こるものです。
ここでは、この用語の意味や身近な事例、社会の中で起きている変化、私自身の体験、そしてこれからについてお話ししていきます。
ノンバイナリー・インビジビリティとは?(定義・背景)
Non-binary(ノンバイナリー)とは、男性か女性かという二つの枠だけでは表せない性自認を指します[1]。
Invisibility(インビジビリティ)は文字通り「見えないこと」を意味します。
その二つを合わせると、ノンバイナリー・インビジビリティは「制度や文化の構造の中で、ノンバイナリーが見えにくくされてしまう状態」を表す言葉です。
参考資料
[1]Wikipedia:Non-binary
ノンバイナリーって何?という方はこちらを参考にしてみてください。

ノンバイナリー・インビジビリティの具体的な事例
ノンバイナリーの人が「自分の存在が見えなくされている」と感じる例には、次のようなものがあります。
・公的書類やアンケートで、性別欄が「男性・女性」しか選べない
・学校や職場で、トイレや更衣室が男女に分かれていて使いにくい
・教科書やメディアにノンバイナリーの存在が登場しない
・「結局どっちなの?」と聞かれて、自分の存在そのものを疑われる
こうした場面が積み重なると、「自分はここにいていいのだろうか」と孤独や不安を感じる人もいます。
さらに、Trevor Projectの調査では、LGBTQ+の若者のうち約26%がノンバイナリーと自認していることがわかっています。その一方で、代名詞(彼・彼女など)を尊重されなかったとき、精神的な健康に強い悪影響が出ることも報告されています[2]。
参考資料
[2]The Trevor Project:全国調査2021

ノンバイナリー・インビジビリティを可視化するための動き
海外におけるノンバイナリー・インビジビリティの可視化の動き
最近のアメリカでは、パスポートに「X」という性別記号を選べる制度が実際に始まっています[3]。
2025年1月、アメリカの裁判所は国務省に対し「パスポートでXジェンダーマーカーを申請した人の発給を拒んではならない」と命じました[4]。
これは、長い間「男性(M)」か「女性(F)」しか選べなかった制度に対し、「X」という選択肢を認めるように司法が正式に判断したということです。
ドイツでは2024年11月1日から「自己決定法(Self-Determination Act)」が施行されました。この法律は、本人の意思だけで戸籍上の性別や名前を変更できるようにしたものです。以前は裁判所や医師の診断が必要でしたが、新しい制度ではそれが不要になり、手続きが大きく簡素化されました。[5]。
参考資料
[3]U.S. Department of State: Sex Marker in Passports (X, M, F options available)
[4]The 19th / ACLU: Trans people can obtain accurate passports again — court order allows ‘X’ gender marker to be issued again
[5]Self-Determination Act (Germany): law effective Nov 1, 2024 permitting self-declaration for gender and name changes
日本におけるノンバイナリー・インビジビリティの可視化の動き
制服の選択肢が増えている動き
「女子もスラックスを選べる」高校が全国で増えています。ある調査によると、女子スラックスが選べる学校は全体の約44%もあるんです[6]。
また、制服を考えている学校のうち「服装に配慮している」と答えたところは約39%に上り、「今後検討する」学校も20%ほどありました[7]。
参考資料
[6]“選べる制服”制度として「女子スラックス」が導入できる高校は44.4%(学校総選挙プロジェクト調査)
[7]ジェンダーレス制服や服装の配慮を進めている学校(全体の約39.3%)
自治体単位で制服を見直す動き
香川県三豊市では、市内すべての中学校で「性別を意識しない制服」を導入することになりました。これは、「男女どちらがどの服を着てもいい」という配慮で、市内全学校が同じ制服デザインになる、とても画期的な動きです[8]。
参考資料
[8]香川県三豊市:全中学校で「性別を意識しないジェンダーレス制服」の導入決定
ノンバイナリー当事者としての体験
私は書類の性別欄を前にして「自分はどちらにも当てはまらない」と思い、居場所がないように感じたことがあります。
また、知人にノンバイナリーについて説明をした時、「本当ななれないけど、そういう存在になりたいってこと?」と聞かれたときには、存在を否定されたような気持ちになりました。
一方で、ノンバイナリーだと認識してもらえたこともあります。そのときには「わたしはここにいていいんだ」と心が温かくなり、胸がいっぱいになるような喜びを感じました。その時のエピソードはこちらの記事で書いています。

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まとめ
・ノンバイナリー・インビジビリティは「存在を見えなくされる現象」を指します。
・背景には「男女二択」という制度や文化の前提があります。
・私は、制度や文化を少しずつ変えていくことで、この見えにくさは和らいでいくと思います。
これからもこのテーマの最新情報をチェックして配信していきます。
あなたは、あなたのままでいい。