3児の親でありXジェンダー(ノンバイナリー)。
30歳から「自分らしい生き方」を探求中のユウです。
最近読んだ一冊の本に、元気と勇気をもらいました。
それが、アミア・ミラーさんの『ノンバイナリー協奏曲』。
タイトルに「協奏曲」とあるように、この本は、母親である筆者と、ノンバイナリーの子ども・アレックスとの対話を中心に展開されていきます。
自分のセクシャリティに悩み、葛藤しながらも少しずつ受け入れてきた私にとって、この本は「やっと正直な気持ちを言葉にしてくれる本に出会えた」と思える一冊でした。
ノンバイナリーをカミングアウトされた親のリアルな心の声
本の中で描かれるのは、アレックスがノンバイナリーであることをカミングアウトしたところから始まる、親子の対話の記録です。
筆者が子どものカミングアウトを経験するアメリカでも、当事者に対して「差別的になってしまうかも」「傷つけてしまうかも」と、腫れ物に触るような風潮があるのだと感じました。でも私は、信頼して自分を打ち明けた相手だからこそ、正直な気持ちを伝え合ってほしいと思うのです。
たとえ、その言葉が少し痛くても、お互いに「わからないこと」「不安なこと」を共有して初めて、「アライ(理解しようとしてくれる存在)」が育っていくのではないかと。
この本は、そんな私の願いを、まるでそのまま代弁してくれているかのようでした。
アレックスの自己表現力がとても高い
とくに印象的だったのは、アレックスが自分の性自認について言葉で説明するシーン。
「自分は男でも女でもない。でも、男でも女でもある。」
初めてこの言葉を聞いた母親が「は?」となるのも当然かもしれません。でもこれは、Xジェンダーの中性・両性・無性・不定性…さまざまな在り方を一言で説明しようとした時の表現としては、その通りだなと思いました。
私自身ノンバイナリーであるにも関わらず、「自分が何者か」をここまで明確に言語化するのは難しい。
アレックスは、?マークがたくさん浮かぶ母親に対して、根気よく、丁寧に説明していくんです。
それだけ自分のことに悩んで勉強した証でもありますよね。それにしても、自分のことを理解して表現するというのは難しいことなのに、アレックスは堂々と自分のことを話していて、その語彙力もさることながら、メンタルも強い!と思いました。
アレックスと筆者の年齢差が、私と実の親の年齢差に近いこともあり、筆者の世代の方々の考え方と私たちの世代の考え方のギャップについて書かれている内容にもとても共感できました。
「they」という代名詞と向き合うこと
アレックスは、自分のことを「they」と呼んでほしいと母親に伝えます。その瞬間、戸惑う母親の描写もとてもリアルでした。
日本では、まだノンバイナリーに対応した代名詞が存在しないのが現実です。私は今のところ、名前で呼んでもらうしかなく、それが少しさびしいと感じることもあります。
SNSでは「they/them」と表示していますが、それを見て理解できる日本人はまだ少ないかもしれません。だからこそ、「こんなふうに呼んで」とお願いするには、それなりの覚悟がいります。相手の受け止め方を想像するとなおさら、言いにくい。
それでも、アレックスのように「これからはtheyを使って欲しい」と明確にお願いすることも、時には必要なんだな、とこの本は教えてくれました。
カミングアウトはゴールではなく、対話のスタート
カミングアウトされたときの母親の戸惑い、疑問、普段と違う装いの子どもの姿をつい見てしまう視線。そうした気持ちを筆者がとても正直に、包み隠さず綴っているところに、私は深い信頼を感じました。
この率直さがあってこそ、読者は「カミングアウトされた側のリアル」を想像できるし、当事者である私たちも、「そんなふうに感じていたんだね」と、客観的な目線で知ることができました。
カミングアウトされた側が感じることを共有できる場所、たとえば親たちのコミュニティに参加することで、当事者に頼りすぎずに支え合える場ができるんだな、というのもこの本からの学びでした。
ノンバイナリーって、結局どんな人たち?
巻末では、筆者が実際にノンバイナリーの人たちにインタビューをしていて、その内容がとても興味深かったです。
「自分が何者なのか、まだわからない」
私自身も、男性でも女性でもない性である、ということ以外はまだ何も自分のことをわかっていなくて、これから先の人生で、はっきりとわかる日が来るのかどうかもわかりません。
そう語るインタビュイーの言葉に、私はとても共感しました。
明確な言葉にできない自分の感覚を、それでも「これが私なんだ」と受け入れる姿勢。
はっきりしていないことを、無理に決める必要はない。
その曖昧さこそが“私らしさ”になる世界に、少しでも近づけたらと思います。
あなたは、あなたのままでいい
『ノンバイナリー協奏曲』は、当事者とその家族、そしてまだ知らない誰かの心をつないでくれる一冊です。
傷つけないようにと遠ざけてしまう前に、「わからない」と言葉にしてくれる関係が、どんなにありがたいかを感じました。
「あなたは、あなたのままでいい」
そんな愛のメッセージが、ページをめくるたびにじんわりと伝わってくる本です。