「大人なんだから○○しなきゃ」「普通は△△だよね」
そんな言葉に、知らず知らずのうちに自分を縛っていませんか?
私もずっと、「ちゃんとやらなきゃ」「人に迷惑をかけちゃいけない」と思い込み、疲れても無理をしていました。
でも書き出してみると、それが自分を苦しめていた“呪文”だったと気づいたのです。
ここでは、私の体験と心理学の知見、そして日常でできる小さなワークを通して、
「〜しなきゃ」「普通は」から少しずつ自由になるヒントをお伝えします。
心の中にある見えないルールブック『スキーマ』とは?
心理学では、こうした「考え方のくせ」にはスキーマという心の仕組みが関係しているといわれています。
スキーマとは、私たちが世界を理解するための心のルールブックのようなもの。
「こういうときはこうする」「これはこうあるべき」といった、
過去の経験や学びからできた“考え方の型”です。
子どもの学びでわかるスキーマのはたらき
たとえば、小さな子が初めて「犬」を見て、「四本足で毛がある動物=犬」と覚えたとします。
すると、次に「猫」を見たときも「犬だ!」と呼んでしまうことがあります。
これは、頭の中の「動物スキーマ」に“猫”を当てはめてしまうから。
でも「それは猫だよ」と教えられることで、
子どもはスキーマを修正し、新しい枠組みを作るのです。
これは大人も同様です。私たちは新しい経験を通してスキーマを少しずつ更新しています。
「普通はこうだ」と思い込んでしまう仕組み
スキーマは本来、世界を理解するための便利な仕組みです。
でも、そのスキーマが固定されてしまうと、「普通は〜」「〜が当たり前」という思い込みを生みます。
たとえば、社会の中にはこんなジェンダー・スキーマがあります。
- 男の子は強くあるべき
- 女の子は優しくあるべき
- 男性は働き、女性は家を守る
こうした考えが強くなると、
「こうしなきゃ」「私はおかしいのかも」と自分を縛ってしまうことがあります。
スキーマは中立なものですが、アップデートされないまま残ると固定観念や偏見になる。
それが、“べき思考”のもとになることもあるのです。
思考のくせはスキーマから生まれる
心理学では、人の考え方は次の3つの層で働くと考えられています。
- スキーマ(考え方の土台)
心の奥にある「世界はこう」「自分はこう」という大きな前提。
例:「人に迷惑をかけてはいけない」(迷惑=とても悪いこと、という強い前提) - 中間的な考え方(〜すべき、〜してはいけない)
スキーマをもとに作られる“生活ルール”。
例:「頼みごとをしてはいけない」「失敗しないように常に準備すべき」 - 自動思考(パッと浮かぶ言葉)
その場で瞬間的に出てくる“いつものセリフ”。
例:「また迷惑かけるかも」「やっぱり自分はダメだ」
こんなことない?思考の癖の具体例
例1:子どもがぐずって、家事が進まないとき
1 スキーマ:「家のことは自分がちゃんとやらなきゃ」
2 中間ルール:「子どもが泣いていても、家事を後回しにしちゃダメ」
3 自動思考:「また洗濯たまってる」「私、要領悪いな」「ちゃんとできてない」
その結果、焦りや罪悪感でいっぱいになり、子どもに対しても余裕を持てなくなってしまう。
「家事はちゃんとやるべき」というスキーマが強いと、今の状況よりも“理想の自分像”を優先してしまい、
休むことや誰かに頼ることが難しくなります。
例2:仕事中にミスをしたとき
1 スキーマ:「失敗はしてはいけない」
2 中間ルール:「完璧にこなしてこそ信頼される」
3 自動思考:「またミスした…」「もう信用されない」「やっぱり向いてない」
その結果、落ち込みやすくなり、次の仕事にも自信を持てなくなる。
“ちゃんとやらなきゃ”という気持ちが強いほど、自分を責めやすくなってしまいます。
でも実際には、完璧でなくても信頼は築けるし、失敗の中にも次に活かせる学びがあります。
例3:パートナーや家族に頼れないとき
1 スキーマ:「人に迷惑をかけてはいけない」
2 中間ルール:「自分のことは自分でやるべき」
3 自動思考:「お願いするなんて甘えだ」「結局私がやるしかない」
その結果、ひとりで抱え込み、疲れがたまって心も身体も限界になってしまう。
“迷惑をかけてはいけない”というスキーマは、優しさや責任感の裏返しでもあります。
こんなふうに具体例を出してみましたが、これらは実際に私自身が困ってきた「思考の癖」でもあります。
私がこれまでに経験してきたお話も少し紹介します。
私の体験:縛られていた“普通”の呪文
「普通に生きなきゃ」と思っていた学生時代
高校や大学の頃の私は、いつも「普通だったら」という言葉を意識していました。
「社会人ならオフィスカジュアルで出勤しなきゃ」
「大学生ならメイクくらいはしておくのが普通」
「恋をしたら周りが見えなくなるのが普通」
そうやって“普通”の基準に合わせようとするあまり、
自分の感覚を押し殺すのが当たり前になっていました。
「どうして自分は“普通”じゃないんだろう」
周りと違う自分への不安から、
「早く周りの人みたいに、”普通”に順応しなきゃ」という焦りに、いつも追い立てられていました。
大人になっても続いていた「しなきゃ」
社会に出ても、「〜しなきゃ」は形を変えて続きました。
「ちゃんと働かなきゃ」
「人に迷惑をかけないようにしなきゃ」
「気を使えない人だと思われたくない」
「子どもは自分が頑張って育てなきゃ」
誰かに頼るよりも「自分でやらなきゃ」と抱え込むようになり、
気づけば体も心も限界に近づいていました。
不眠、疲労、気分の落ち込み。
「頑張らなきゃ」と思えば思うほど、心が重くなっていったのです。
書き出して見えた“呪文”の正体
ある夜、ノートに思いを全部書き出してみました。
そこに並んだのは、こんな言葉たち。
- 周りの人たちを不安にさせないようにしなきゃ
- 親としてちゃんとしなきゃ
- 人に迷惑をかけない
- 頑張らなきゃ
見返して思いました。
「ちょっと、自分を追い込みすぎじゃない?」と。
そこに書かれていた言葉はまるで、社会の常識や過去の経験、誰かの期待の寄せ集めみたいでした。
この気づきは、自分に優しくなるための第一歩になりました。
「やらなきゃ」から「ありがとう」へ
少しずつ意識を変えていく中で、私は「義務」ではなく「感謝」で行動するようになりました。
「やらなきゃ」ではなく、「やってあげたい」「支えたい」「気持ちを伝えたい」。
同じ行動でも、出発点が変わるだけで、気持ちが軽くなることを知りました。
それからというもの、誰かのために何かをするときも、
「ありがとう」の気持ちでやるようになりました。
それが“呪文”から少しずつ自由になる最初のステップでした。
実践:禁止ワードを書き出してゆるめるワーク
ステップ1:思い浮かぶ言葉を書き出す
ノートに「〜しなきゃ」「普通は」で思い浮かぶ言葉を全て書き出してみましょう。
例:
- 「人に迷惑をかけちゃいけない」
- 「ちゃんとやらなきゃ」
- 「失敗したら恥ずかしい」
ステップ2:「本当にそう?」と問いかける
一つずつ、「本当にそう?」「例外はある?」と問い直してみます。
- 「頑張らなきゃ」→「休むことも前に進む準備かもしれない」
- 「人に気を使わなきゃ」→「正直に話すことで関係が深まることもある」
ステップ3:やわらかい言葉に言い換える
禁止ワードを少しずつ言い換えます。
- 「〜しなきゃ」→「〜したほうがいいかもね」
- 「普通は」→「私はどうしたい?」
- 「完璧に」→「できる範囲で」
ステップ4:不安がやわらぐまで続けてみる
- 不安に感じることが増えてきたら、ノートに書き出してみる
- 書いた後は「まあいいか」と声に出す
- 苦しくなったら一旦中止する
続けるうちに、“呪文”は少しずつ弱くなっていきます。
状況を俯瞰してみれるようになってきて、
「自分が思っているほど深刻じゃないかも」
「心配してるの、自分だけかも」
「頼ったっていいじゃない」
そんなふうに思えるようになってきます。
最後に:同じように悩むあなたへ
責任感が強く、真面目なあなたは、
きっとこれまでたくさんのことを背負ってきたはずです。
でも、周りの人はあなたが思うほど、あなたに完璧を求めていません。
自分に何かを求めているのは、いつも自分。
「〜しなきゃ」「普通は」という言葉が浮かんできたら、
一度立ち止まってこう問いかけてみてください。
「それは本当に“しなきゃ”いけないこと?」
「“普通”である必要はあるのかな?」
あなたの呼吸が少しでも軽くなりますように。
この言葉が、日々の小さなストレスからの解放につながりますように。
あなたは、あなたのままでいい。

