考えがまだまとまっていない悩みを抱えているとき、あなたはそのまま誰かに話せるでしょうか。
私の場合、ほとんどの人に対して、「もう少し自分の中で整理してから話そう」と考えてしまいます。
自分の状況をうまく説明できなければ、相手にも時間を使わせてしまう。相手が専門的な知識を持っている人なら、こちらの話が整理されているほど、欲しい答えも得やすくなります。
だから私は、基本的には自分の中にある問題を、まず自分で考えたい人です。
それでも、うまく言葉になっていないことや、まだ解決していない悩みを、そのまま話したい時だって、時にはあります。
そして、そういう時、「あの人に話そう」と思える人は、私にとって「安心して話せる人」です。
そんな人たちとの関係を振り返ると、私自身も、誰かに安心して話してもらうために大切にしたいことが見えてきました。
安心して話せる二人は、聞き方がまったく違う
私が最初に「自分はXジェンダーかもしれない。男性でも女性でもないのかもしれない」と相談した友人がいます。
その友人は、まず私の話を聞きます。
そして、「それは大変だったね」「本当にお疲れさま」と、その出来事を乗り越えてきた私自身をねぎらってくれます。
すぐに解決策を出そうとはしません。
「私だったら、同じ立場になったらこうなってしまうと思う。でも、あなたは冷静に乗り切ったんだね」というように、自分を主語にして話します。
もう一人、話しやすい相手がパートナーです。
パートナーは、相手の立場に立って共感することが特別得意なわけではありません。でも、ありのままの私を否定しません。
私が無理をしやすいことも、我慢してしまうことも、強がってしまうことも知っています。
だから、「もっとこう変わったほうがいい」と私を追い立てるのではなく、「もう無理しないほうがいい」と心配します。
友人とパートナーの反応は、かなり対照的です。
それでも、私は二人と話すと安心します。
その経験から、安心できる関係は、決まった聞き方を身につければ生まれるものではないのだと感じています。
大切なのは、話を聞くときに相手とどう向き合うかです。
1.存在を否定しない
私が誰かの話を聞くとき、まず大切にしたいのは、その人の存在を否定しないことです。
これは、相手の話にすべて同意するという意味ではありません。
考え方が違うこともあれば、私にはすぐに理解できないこともあります。それでも、その人がそう感じたことや、そこに至るまでに考えてきたことを、最初からなかったことにはしません。
悩みが解決していなくてもいい。考えがまとまっていなくてもいい。話の途中で言葉が変わってもいい。
私は、相手が私に伝わるようにきれいに話すことよりも、その人が今持っている言葉を、そのまま出せることを大切にしたいと思っています。
それが相手にとっても、「この人には何話しても大丈夫そう」と感じるきっかけになると思うからです。
2.すでに頑張っていることを前提にする
私自身、いろいろなことを我慢したり、耐えたりしながら、つい無理をしてしまうところがあります。
そんな私にとって、「もう十分頑張っている」というところから話を聞いてもらえることは、大きな安心につながります。
だから私も、悩みを話してくれた人に、さらに頑張る方法を提案することはほとんどありません。
人は、私に話すまでにも、その人なりに考え、試し、耐えてきているかもしれません。
たとえ理想として正しい方法があっても、今の状況や精神状態では実現できないこともあります。
正しい答えを伝えることより、まず、目の前の人がここまでどうやってきたのかを見る。
私は、その順番を大切にしています。
3.アドバイスをする前に、相手が求めていることを考える
私は、アドバイスは相手が求めてきたときにするものだと思っています。
相手が話し始めた時点では、その人が何を求めているかはわかりません。
ただ聞いてほしいのかもしれない。気持ちをわかってほしいのかもしれない。本当に方法に行き詰まり、猫の手でもいいからアイデアを借りたいのかもしれない。
だから私は、自分がどんな立場でその話を聞くのかを、まず考えます。
話を聞いた直後に「こうしたほうがいい」と言うことは、なるべくしません。
アドバイスは、相手に一つのボールを渡すことでもあります。受け取った人は、その言葉をどう考えるか、どう返事をするか、実行するかどうかを考えることになります。
特につらいときは、自分のことを考えるだけで精いっぱいです。そこに新しいボールを渡せば、相手の負担を増やしてしまうこともあります。
私は何かを伝える前に、今この人は、私に何を求めているのだろうと考えたいです。
4.「普通は」ではなく、私を主語にして話す
私が誰かに自分の考えを伝えるときは、「私は」を主語にします。
「普通だったらこうする」
「周りもきっとこう思っている」
そうした言い方ではなく、「私はこう思う」「私も同じ立場だったら、こうなると思う」と話します。
特に、少し先を行く先輩として私の経験を聞きたいと言ってもらったときには、「こうしたほうがいい」と答えるのではなく、「私は同じことで悩んでいたとき、こう考えて、こんなことをしていた」と、自分の経験として話すようにしています。
私の経験は、相手にとっての正解ではありません。
自分を主語にして話せば、私は一つの例として経験を差し出せます。そして、受け取るかどうかは相手が決められます。
教える側と教えられる側に分かれるのではなく、対等な関係のまま話すために、私は主語を大切にしています。
5.成果だけでなく、弱さも分け合う
安心できる関係は、長い時間を一緒に過ごせば、自動的にできるものではないと思います。
私にとって大切なのは、どれだけ腹を割って話してきたか。
頑張ったことや成果だけではなく、本当につらかったときのこと。自分の弱い部分。うまくできなかったこと。
そうしたものをお互いにどれだけ共有してきたかが、安心できる関係に影響するのだと思います。
だから私も、本当に大事な話をしたい相手には、自分の経験をいつも成功した話としてきれいにまとめるのではなく、そのとき何に悩み、どう迷ったのかも含めて話したいです。
付き合いが短くても、お互いに弱い部分まで見せながら腹を割って話せれば、深い関係になることがあります。
反対に、長い付き合いでも、表面的な話だけを続けていたら、なかなか安心した会話はできないと感じます。
話したあとに、少し気持ちが軽くなる時間をつくりたい
安心できる人と話したあとは、ほっとします。
自分が思っていることを誰かと共有できるのは、それだけでものすごくありがたいことです。
話したからといって、悩みがすぐに解決するとは限りません。
それでも、自分と似た境遇の人にしかわからない悩みを、わかったうえで聞いてもらえたとき、私は明らかに気持ちが軽くなります。
だから私は、コミュニティで話してもらうことや、プログラムに対面のセッションを入れることを大切にしたいと思っています。
誰かが話してくれたとき、私はその人の答えを決めたいわけではありません。
まず、その人が何を求めているのかを考える。
もし私の経験を聞きたいと言ってもらえたら、「私はこうだった」と話す。
相手の人生のボールを奪わず、相手の手元に置いたまま一緒に考える。
そんな時間をつくりたいと思っています。
私も、安心して話せる相手でありたい
安心して話せる人とは、何でもわかる人でも、正しい答えを持っている人でもありません。
私は、相手の存在を否定しないこと。
すでに頑張ってきたことを前提にすること。
アドバイスを急がず、相手が何を求めているかを考えること。
自分の経験は、「私は」を主語にして話すこと。
成果だけではなく、弱さも分け合うこと。
そうしたことを一つずつ大切にする人が、安心して話せる相手になるのだと思います。
うまく言葉にできないときって、必ずしも答えを探しているわけではないですよね。
ただ、今ここにある気持ちを、誰かと分け合いたいときがあります。
私が誰かにしてもらって救われたことを、今度は私も、誰かに返していきたい。
まとまっていない言葉を安心して出せる時間を、これからも大切につくっていきたいと思っています。

