シスノーマティビティとは、
「人は生まれたときに割り当てられた性別と、心の性別が一致している」
という前提が、社会のあらゆる場面で、当たり前のように存在している状態のことです。
私は長いあいだ、自分の人生をどこか他人事のように生きてきました。
ちゃんと学校に行き、働いて、人間関係もそれなりに築いている。
それなのに、なぜか心の奥だけが置き去りにされているような感覚が、ずっと消えなかったのです。
後になって、生まれた時の性別と心の性別が異なっていたことがわかった私ですが、
その違いにすぐに気づけなかった理由の一つには、
シスノーマティビティがあると考えています。
この記事はこんな人におすすめです。
・性別について、うまく言葉にできない違和感を抱えている
・「普通」に合わせて生きることに疲れている
・Xジェンダーやシスノーマティビティという言葉が気になっている
・自分がおかしいのかもしれない、と一人で考え続けてきた
シスノーマティビティとは何か|意味をわかりやすく解説
シスノーマティビティとは、
「人は生まれたときに割り当てられた性別と、心の性別が一致している」ことを前提に、
学校や職場の制度、日常会話、さまざまなルールが作られている状態のことです。
もう少し噛み砕くと、
・人は男か女のどちらか
・その性別として生きるのが自然
・違和感を持つ人は少数派
こうした考えが、説明されることもなく「当たり前」として扱われている、ということです。
ここで重要なのは、
誰かが悪意をもって押しつけているわけではないという点です。
むしろ、あまりにも当たり前すぎて、疑問を持つこと自体が想定されていない。
それがシスノーマティビティの一番見えにくく、しんどいところだと、私は感じています。
関連用語|ヘテロノーマティビティとは
ここで、シスノーマティビティとよく一緒に語られる
ヘテロノーマティビティという言葉についても、簡単に触れておきます。
ヘテロノーマティビティとは、
「人は異性を恋愛対象にし、異性と恋愛・結婚するのが当たり前だ」
という前提が、社会の中で当然のものとして扱われている状態のことです。
もう少し噛み砕くと、
・恋愛の前提が男女
・結婚=異性同士
・それ以外は例外、または説明が必要
といった考え方が、疑われることなく使われている、ということです。
シスノーマティビティとヘテロノーマティビティは、
別の概念ですが、同時に働くことが多い前提でもあります。
たとえば、
・性別は男女のどちらか
・その性別に合った異性を好きになる
というストーリーが、
最初から用意されているような感覚です。
この前提が強い社会では、
性別や恋愛について少しでも違和感を持つと、
「自分がおかしいのかもしれない」と感じやすくなります。
私自身も、
性別の違和感と同時に、
恋愛や人間関係の前提に息苦しさを感じていた時期がありました。
ヘテロノーマティビティについては、別の記事で詳しく書きますね^^
なぜ私はXジェンダーだと気づくのが遅れたのか
私が自分をXジェンダーだと理解するまでには、かなり時間がかかりました。
今振り返ると、その背景には、シスノーマティビティが強く働いていたと思います。
女の子らしいかわいい服装、スカートを履くこと、かわいいメイクをすること。
それらを「当たり前」としてこなすことに、疲れを感じていました。
最初は、
「もしかして男の子になりたいのかな」
そう思ったこともあります。
中学生の頃には、わざと口調を荒くしてみたり、足を広げて座ってみたりもしました。
「俺」や「僕」などの一人称を使ってみたこともあったけれど、
それもしっくりはきませんでした。
大学生になると、
女性らしい振る舞いに違和感を抱きながらも、
「違うことをしたら浮いてしまう」という怖さのほうが強くなり、
結局、何も変えられませんでした。
周囲を見渡しても、同じように悩んでいる人はいないように見えた。
だから私は、
「疑問を持つ自分がおかしいんだ」
そう思ってきたのです。
シスノーマティビティが日常に与える影響の具体例
シスノーマティビティは、制度やルールだけでなく、
私たちの日常の「選択」にも静かに影響を与えています。
心理学や社会学の分野では、
「社会的規範に合わない属性を持つ人は、自己表現を抑制しやすくなる」
ことが指摘されています。
これは「スティグマ(社会的烙印)」という概念で説明されることがあります。
スティグマとは、社会から否定的に見られやすい属性を持つことで、本人が自分を低く評価してしまう状態のことです。
シスノーマティビティの強い環境では、
「男女どちらかに当てはまらない」というだけで、
・目立たないようにする
・空気を読む
・本音を隠す
といった行動を選びやすくなることが指摘されています[1]。
私自身も、
本当は着たい服やしたい髪型があっても、
「普通から外れること」のほうが怖くて、選ばずにきました。
それは性格の問題ではなく、
社会的前提に適応しようとした結果だったのだと、今では思います。
参考資料
[1] Goffman, E. (1963). Stigma: Notes on the Management of Spoiled Identity. Prentice-Hall.
シスノーマティビティが自己否定につながる理由
シスノーマティビティの影響は、
やがて内面にも及びます。
社会心理学では、
自分の属性が否定されやすい環境に長くいると、その否定的な見方を自分自身に向けてしまう傾向がある
ことが指摘されています。
これは「内面化された抑圧(internalized oppression)」と呼ばれ、
差別や偏見を直接受けていなくても、
自分で自分を責めてしまう状態を指します[2]。
Xジェンダーのように、
そもそも存在が想定されていない立場では、
・「おかしいのは自分だ」
・「我慢すればいい」
・「波風を立てないほうが正しい」
と考えやすくなる傾向があることが、研究でも示されています[3]。
私も、
自分の感情を無視することに慣れていくうちに、
「つらい」「嫌だ」という感覚そのものが鈍くなっていきました。
それは弱さではなく、
生き延びるために身につけた適応だったのだと思います。
参考資料
[2] David, E. J. R., & Okazaki, S. (2006). The internalized oppression scale. Cultural Diversity and Ethnic Minority Psychology.
[3] Meyer, I. H. (2003). Prejudice, social stress, and mental health in minority populations. Psychological Bulletin.
言葉を知って腑に落ちた|Xジェンダーとシスノーマティビティ
「Xジェンダー」「シスノーマティビティ」という言葉を知ったとき、
私はすごく腑に落ちました。
「ああ、やっぱり私は女性じゃなかったんだ」
そう思えたことで、
これまでの違和感が、一本の線でつながった気がしました。
ただ、
社会に強く主張したいわけでも、
誰かに理解してほしいと叫びたいわけでもありませんでした。
それよりも、
同じ感覚を持っている人と関わってみたい
その気持ちのほうが、ずっと大きかったのです。
だから私は、発信を始めました。
メルマガを書いたり、コミュニティを立ち上げたりしました。
そこで、自分と同じような感覚を持った仲間に出会えたことで、
ようやく自分を受け入れられるようになったのです。
「同じような人がいる」
その安心感が、シスノーマティビティに縛られず、
「なりたい自分を目指していこう」と思うための土台になりました。
シスノーマティビティに苦しんでいる人へ伝えたいこと
もしあなたが今、
・自分の違和感に名前がついていない
・「自分がおかしいのかも」と一人で責めている
そんな状態にいるなら、これだけは伝えたいです。
疑問を持ったあなたが間違っているわけではありません。
まわりからの理解よりも、まずは自分の心の安全を大事にしてほしい。
そして、自分の正直な気持ちに、耳を傾けてあげてほしい。
私はそう思っています。
あなたは、あなたのままでいい。

